【五臓】脾の特徴

脾には次のような特徴があります。

  1. 脾主後天:脾は後天を主(つかさど)る
  2. 受精時に両親から受け継いだ生命エネルギーを腎精または先天の精といい、生まれた後に飲食物から作るエネルギーを後天の精といいます。先天の精は腎にストックされ、後天の精は脾の運化作用によって作り出されます。理論上無限に作ることができる後天は、有限の先天を補い、先天から作られる腎陽が脾陽を温煦して後天の機能を高め、互いに協力関係を築いています。

    脾が正常に機能していれば、後天が先天を十分に補えるので、心身ともに若々しくて健康です。年齢を重ねても食欲のある人の方が、前向きで頭もはっきりし、病気になりにくいのはそのためです。しかし、脾の機能低下などにより後天が先天を補えなくなると、心身の老化が加速するだけでなく、病気に罹りやすく、治りにくくなります。

  3. 脾為気血生化之源:脾は生化気血(せいかきけつ)の源を為す
  4. 脾は運化水穀作用によって、飲食物から得た栄養物質を人体に必要な津液に作り変えます。この作用が正常に機能しなければ、生命活動を維持することはできません。

    ダイエットや偏食など食餌の不摂生による気血津液の原料の供給不足や、脾の機能低下による運化作用の低下は、疲れやすい、息切れ、しゃべるのが億劫、気力が出ないなどの不足による症状だけでなく、かすみ目、動悸、不眠などの不足や、空咳、肌の乾燥、寝汗など津液の不足にまで発展し、心身に不調を来しやすくなります。

  5. 脾主中州:脾は中州(ちゅうす)を主る
  6. 中州とは中央を意味します。脾は運化水穀作用によって正常な生理活動の維持に必要な気血津液を作り出し、臓腑・器官・筋肉・皮膚など人体の全てを養っていますが、中焦に位置しているため、全身への運搬を効率よく行うことができます。

    脾が五行の土に当たり、土は万物を育みます。土に属する方角は中央で、脾は人体中央に位置するため、作り出したものを全てに向かって満遍なく運搬することができます。

  7. 脾合胃:脾は胃に合す

  8. 五行の色体表を見ると、脾と胃は同じ土に属していることがわかります。脾と胃は経絡で繋がり、生理上も互いに密接に関係しています。胃は受納を、脾は運化を主り、胃が飲食物を消化し、それをもとに脾が人体に必要なものに作り変えます。別の見方をすれば、飲食物を受け入れる胃には収納のはたらきが、必要なものに作り変える脾には変化のはたらきがあると考えることができ、相反する作用で相互にバランスを取っていることが解ります。また、後で説明する脾主昇清、胃主降濁脾悪湿、脾喜燥。胃悪燥、胃喜潤も、脾胃が相反する性質でバランスを取りながら、密接に関係していることが解ります。

    胃が正常に機能することで、飲食物から栄養物質を吸収することができ、それをもとに脾は人体に必要なものを作り出すことができますが、胃の消化吸収が低下すると、原料不足により必要なものの生成も低下し、二次的に脾胃が機能するために必要なものも不足して共倒れの状態になります。

  9. 実則陽明、虚則太陰:実すれば則ち陽明(ようめい)、虚すれば則ち太陰(たいいん)

  10. 陽明とは胃を、太陰とは脾を表します。常に飲食物で満たされる胃は、消化不良、熱、冷えなど不要なものが停滞する実証(じっしょう)になりやすく運化作用を主る脾は、を消耗して機能低下となる虚証(きょしょう)になりやすいという特徴があります。

    寝冷えや冷たいものの摂り過ぎで胃に冷えが停滞すると、腹痛が起きることがあります。この場合、温めると痛みは軽減しますが、手を当てるのは不快に感じます。不要なものの停滞がある実証では、触ると症状が悪化します。ところが、冷えが脾に影響して腹痛が起きる場合は、冷えが脾の熱エネルギーである陽気を消耗するため、温めることで痛みが軽減し、手を当てると気持ちよく感じます。胃に冷えが停滞した実証の場合は冷えを取り除くことで、脾に影響して熱エネルギーを損なった虚証の場合は、温めるとともに消耗した熱エネルギーを補うことで治療を行います。

  11. 脾主昇清、胃主降濁:脾は昇清を主り、胃は降濁を主る

  12. 胃は降濁(こうだく=和降)を、脾は昇清主り、飲食物を小腸に下降させる胃と、飲食物から作った人体に必要なものを肺や頭部に持ち上げる脾は、昇降においてもバランスを取っています。

    食餌の不摂生や疲労は脾胃のバランスを崩す原因になります。降濁に支障が出ると、げっぷや嘔吐など上向きに症状が出ます。昇清に支障が出ると、下痢や内臓下垂など下向きに出ます。

  13. 脾常不足:脾は常に不足す
  14. 脾は気血生化之源であり、後天の本です。脾が運化水穀作用によって飲食物から作り出す栄養物質で人体は養われ、正常な生命活動を営むことができます。特に成長過程にある小児では、脾から栄養物質が不断に供給、運搬されているため脾への依存度が高く、脾は常にフル活動する必要があるため、このように表現されます。

    食欲旺盛な子どもほど身体が成長しやすく、精神が安定しているのはこのためです。小児はまだ臓腑が未熟なため、幼少期に食が細くても、成長とともに臓腑がしっかりしてくるので心配はいりません。但し、食が細いからといって、口当たりのよい冷たいものや生ものばかり食べさせていると、脾を傷つけてしまうので注意が必要です。

  15. 脾悪湿、脾喜燥。胃悪燥、胃喜潤:脾は湿を悪(にく)み、脾は燥を喜ぶ。胃は燥を悪み、順を喜ぶ
  16. 脾は湿気の影響を最も受けやすい臓腑で、外界の湿気や過剰な水分摂取などにより機能低下を引き起こします。反対に、胃は常に消化液や飲食物で満たされているため、乾燥が苦手で、津液で満たされた状態で正常に機能することができます。

    脾が湿気の影響を受けると、頭が重い、体が重だるい、むくみ、悪心、嘔吐、下痢などの症状が現れます。胃の乾燥は、消化不良、唇の乾燥、口内炎などの原因となります。

  17. 脾為生痰之源:脾は生痰の源を為す
  18. 痰とは水分代謝異常による病理産物をいいます。脾の運化水液作用が低下すると、正常な津液を作り出すことができず、痰などの病理産物が作られます。水分代謝には他の臓腑も関係していますが、他の臓腑の機能低下によりできた病理産物が脾に影響しても、運化水液作用が低下し、痰を作り出してしまいます。

    冷たいもの、生もの、水分、発酵食品の過剰摂取、あるいは無理なダイエット、過食などは脾の機能低下の原因となり、容易に痰を作り出します。かぜでもないのに痰や痰が絡んだ咳が出たり、むくみや体の重だるさなどがあれば、脾の機能低下の可能性があります。食生活の見直しをするだけで改善されることもあります。

  19. 脾主肌肉:脾は肌肉(きにく)を主る
  20. 脾が運化水穀作用によって飲食物から作り出す津液が滋養することで、全身の皮膚や筋肉は発達し、正常に機能することができます。

    運化水穀作用が低下すると、皮膚はハリやツヤがなくなり、筋肉もやせ衰え、萎えて動かすこともできなくなります。

  21. 脾主四肢:脾は四肢を主る
  22. 肌肉同様脾が運化水穀作用によって飲食物から作り出す栄養物質で四肢も滋養され、軽やかに動き、力もあって、正常に機能することができます。

    胴体の割に手足が細かったり、反対に太かったり、あるいは手足だけむくむ、手足に力が入らない、手足の冷えなど、手足に特徴的な症状が現れる場合、脾の機能に問題があると推測することができます。

  23. 脾開竅于口:脾は口に開竅(かいきょう)す
  24. 脾にとって口は外界との連絡窓口です。口は消化管の出発地点で、脾の精気は口に通じるため、飲食や味覚は脾の運化作用と密接な関係があります。

    脾の運化作用は正常であれば、食欲があり、味覚も正常なため、おいしく食餌を摂ることができます。しかし、脾に邪気の停滞や機能低下があると、食欲不振や食欲の異常亢進、味覚異常、口が甘い、苦いなど口中に異常な味を感じる、口が粘る、口が乾く、口内炎など、食欲や口内に異常が現れます。

  25. 脾主涎:脾は涎(えん)を主る
  26. 涎とはよだれのことで、澄んだサラサラの唾液をいいます。涎は口中にある津液で、口腔内を潤し、粘膜を保護しています。津液は脾が運化水液によって飲食物から作り変えたもので、口は脾と密接な関係があるため、涎から脾の状態を推察することができます。

    脾の機能低下では涎を調節することができず、口から涎が垂れたり、口が乾くなどの症状が見られます。